カナリアの宝石さがし
田中修子

閉鎖病棟のお昼ご飯のとき
彼女はとうとつに、異国の歌を囀りだした
お父さんとお母さんの赴任先の香港で
メイドさんのを覚えたという

薄い月の浮くお昼間みたいな
あかるい声

わたしと同い年の三十歳だという彼女は
なんでかとても
あどけない

まわりを気にせず囀りはじめ
とうとつに終わる金糸雀さん
かってに喋り始める だれもきいていない わたしのほかは

「あたしね 三十歳なんですけど 精神年齢が幼稚園児なんですって
それでね べつに頭は悪くないんだって 病気でもないみたい
おとうさまとおかあさまがびっくりしてね
ここにつれてこられたの
あしたから思春期病棟にうつるの
そしたらね もうお会いできなくってね
でもいいの ここ おばさんたちだけだもん
同い年の子となかよくできる
治ったら 退院できるの
いつ治るのかな また香港に行きたいなぁ
今度はちがう歌をうたいます メイドさんが歌ってくれた童謡です」

気づかないでこられて
よかったね
あなたは治らない
手遅れまで育てられなかっただけだから
昔のわたしとおんなじだった
あのころわたしは気づいてしまった それでとっても怒っていたの
あんまり腹が立ちすぎて
消えようとしたけれど未だ浮いている薄い月

あの病棟には香港育ちの金糸雀の歌声が今日も響いている
うるさいと睡眠薬がでるかもしれない

悪いガスだらけの炭鉱で 生きていくということは

薬漬けの金糸雀

それでもわたしはパタパタとんでいる
薄い月浮く空のした
枯葉の落ちる土のうえ

炭鉱から掘り出して磨く宝石をさがして


自由詩 カナリアの宝石さがし Copyright 田中修子 2017-11-14 00:33:09縦
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