項垂れるということ
坂本瞳子

項垂れるとはどういうことか

なにごとにも失望なんてしていない
恥ずかしいなんて思っていない
羞恥心など持ち合わせていないのだろうか

力なく首を前に垂れてしまうのは
いつからだろう
気づいたときには猫背だと人から言われた
その頃はまだ人から話しかけられていた
若かったどころか幼かっただろうに

俯く癖はいつからだろう
転ばないように足元を見て歩くようになってた
空を仰いで歩くと必ず転ぶ
転んで膝を擦りむいて出血して
そんなのは遠い昔遥か彼方の気がする

本は両膝の上に置いて屈むようにして読むんだ
額の上方に掲げて陽の光を受けながら読むことなんて決してない
雨に打たれて風にまみれてそれでも読み続けるなんてことはしない

そしてまた下を向いて歩く
歩きにくいけれどいいじゃないか
立ち止まってはいないんだから

走るときだって項垂れるんだ
サッカーボールを追いかけて
ポチを追いかけて
影を追いかけて
決して踏んづけてしまわないように

前に誰かいるかもしれないって感じたときは
両腕を前に突き出したまんま走るんだよ
いいんだ別に不格好でも
皆の方が避けてくれる

眼差しを足元に向けていれば
転ばなくて済むだけじゃなくて
闘争を避けられる
笑顔にも恵まれないかもしれないけれど
寂しさは忘れたふりをできるから
俯いていれば涙を見られることもない


自由詩 項垂れるということ Copyright 坂本瞳子 2017-11-13 21:24:35
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