そしてまた大人になる。
愛心
二十代も半ばになって、初めて詩というものを書いてから十年は優に経ってしまった。
あの頃のような瑞々しさを、私はきっとどこかに置いていってしまった。
駄菓子屋のラムネのガラス玉を、宝石箱に仕舞い込んだあの頃。
雑誌の隅のおまじないに、心ときめかせたあの頃。
友達とお揃いのキーホルダー。
好きな人の写真と生徒手帳。
お気に入りのシャーペンと、物語を書き散らした薄いノート。
私が「ガラクタ」と、一蹴できてしまいそうなものばかり。
そんなものばかり、大切にしていた。
もぎたての果実の心。
甘酸っぱく、まだまだ青く、固くて、怖いもの知らずだった少女は、
薄く色づき、柔らかい傷口から蜜を滴らせ、とろりと甘くなり、女になった。
少女にはなれず、淑女とも言えない。
ただの女になってしまった。
あの頃の不器用で、不細工で、下手くそな瑞々しさを私は何処に置いてきたのだろう。
あの頃より少しだけ、器用に、綺麗に、上手になった私は
少女の心に流れていた水脈を、いつの間にか塞き止めてしまったのだろうか。
ひたひたと、ひたひたと、
溢れようとする水音を、キスに隠して。
自由詩
そしてまた大人になる。
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愛心
2017-11-12 14:18:09