地球、戻らず
倉科 然

昏い水の底で物言わず
新緑の葉の中で光を浴びず
紅の空に鳥は飛ばず
左翼を失った飛行機が大気圏を超えた日の話

毒入りの林檎を食べてしまった少女は
想定内の死を受け入れて
夕立の中美しく美しく踊る

なけなしの金で博打をした中年の男は
安酒片手に子供を睨み
次の日の朝、日雇いの仕事に向かう

無から産まれた虹色の卵が割れて
果てしない膨張の中に個別の意識を孕んだ

月影の間を縫うように這う蛇を
朝日の輝きを反射するライオンのたてがみを
下手な映画で惰性の涙を流す私の脳髄を

大気圏外に撒き散らす機影


自由詩 地球、戻らず Copyright 倉科 然 2017-11-08 21:25:50
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