極めて人間的
ただのみきや

意識はふくらみ 肉体から浮き上る
こどもの手に握られた風船みたいに
実体のない 軽すぎるガスで ぱんぱんになった
自我――今にも破裂しそう(でなかなか破裂しない)
が 明後日の風に弄られる

地べたを這う
からだの中には血肉がびっちり詰まっていて
いのちは生きることを止めようとしない
致命傷だろうと末期だろうと最後まで
抵抗し続ける 一つの原理が働いている

捨て去りたいとすら思っていたものを
容易く強奪された時
こころとからだは親密になって 
互いを強く愛おしみながら
漕いだことだろう
すでに滝を 仰向けに 落ちてはいたが

――やがて闇が訪れ 
    光は  訪れただろうか――


昔はどこの国にも鬼が住んでいた
山に 廃屋に あるいは屋敷に
山賊のように分かりやすい殺し方はしない
ひっそりと隠れ住み
旅人を泊めて もてなして
夜には殺し 奪い 食らう
そんな人間を鬼と呼んだ
今では鬼とは呼ばないが
いなくなったわけではない

昔の人が迷信深かったわけではない
人外のものとしておきたかったのだ
そして今も――

「あれは人の血が通っていないモンスター」

否 いかにも人間らしい人間以外決してしない
蜘蛛やカマキリだってそこまでしやしない

  人の心には鬼の面
  鬼が被るは人の面
  面はひとつの裏表

――乖離した風船がフワフワ 
         またひとつ網にかかって




                 《極めて人間的:2017年11月8日》











自由詩 極めて人間的 Copyright ただのみきや 2017-11-08 21:08:31縦
notebook Home 戻る  過去 未来