悲しみジョニー(詞:UA)を全年齢向けに解釈しようと足掻いてみたら残念なことになった件
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――どうしてこんなことになっているんだろう。

さっきまで駅近のデパートに居てエレベーターを降りたばかり。
待ち合わせ場所で一人待ちぼうけているのも厭でエレベーターに乗ったばかり。
いつもの先輩とのいつもの待ち合わせ場所でいつもどおりにゆるくまったりする予定だったけど先輩からの連絡がたまたま全然なくって今日は振られたのかなと思ったばかり。
こんなたまたまが結構続くようになってきたしそろそろこの関係も終わっちゃうのかなあとなんとなく思ってたばかり。

だった。

どうして助かったのかはわからない、
辺りはすでに人はなく、
都内の電力が全停止したみたいな絶望的な無音の中、一面瓦礫の山みたいな中で
なんでか泣きじゃくる男の子の手を握っている。

そっか、あのデパートもうないのか。

信号は全部止まっている。人も車も見かけない。電車も動いていないっぽい。

通信機器の電源を入れても電話はもとよりツイートもラインも通じない、
どころか被害状況とかの情報を流せるような存在さえもうどこにもないってことは随分後になってから分かってきたことだったけど、

けど「ママ、ママ」と泣く子供の手をとても小さく感じて、
夜はさむくなるから何か食べるものを探さなきゃと思った。

近くのビルは無事だった。そこの1階に入ってるコンビ二の窓はかち割られていて食品類は空っぽ、仕方ないから生理用品とサランラップと下着とビニール袋をもらった。あとのど飴。
トイレがあれば今日はここを寝床にしてもいいけど、ここって安全?

ああ、誰かに相談したいけど誰ともつながらない。やってみるだけ電池のムダ。
どうして今夜はこんなに寒いの?おなかが空いているから?
どうして全部自分で決めなきゃいけないの?ねえきみは?

「ぼく、ぼくは…わかんない」
「おなかすいた?」
「うん」
「さみしい?」
「うん」
「さむい?」
「うん」
「もうやすむ?」
「わかんない… おうちかえりたい」
「おうちはちかいの?」
「ううん」
「なまえは?」
「…」
「しらない人にはなまえを教えちゃいけないんだっけ」
「そう」
「でも、なまえがないとなんて呼んだらいいかわかんないなあ」
「じゃあキハ」
「キハ?」
「ぼくの好きな電車のなまえ」
「ふうん」
「おおきくなったらキハ運転するんだ」
「へえ」

キハがちいさく身震いしたので、棚に乗ってた一番くじのラストワン賞っぽいブランケットを拝借した。
コンビニは案外人の目につきやすいから、未成年2人が休むにはあまり安全とは言えないかもしれない。
ほんの数時間でコンビニから暴力的に物品が奪われているような事態だし、大人もみんな子供にやさしいとは思えない。
今夜はこのビルの2階に上がった方が安心?

「お姉ちゃんはなまえなんていうの?」
「じゃあユキでいいよ」
「ユキちゃん」
「ユキちゃん。」

地震なら、余震らしきものがあってもよさそうだけど今のところその気配はない。

「え、ちょ、キハ? へんなとこに手を入れないで!」
「こうするのたのしいすき」

なぜだかキハに脇から手を入れられた。くすぐったくてムズムズする。
やめさせたいけど懲りずに突っ込んでくるからあきらめた。
とりあえず今日はもう寝て明日のことは明日考えよう。


**


第一音からして何処にも居場所のない流離う人々のイメージで、なんつうか泥水啜って生活している感じ、んでもってごく一部の階層の人々がこういう生活をしているとかじゃなくて、多分全人類的にこんな生活になってしまった感じがすごいする。平和とか、衣食住足りて初めて実現できる概念じゃないかと思うんだけど、金と権力も物資が絶対的に不足した平和のない世界では通用しないんじゃないか?と小さな個人は考える。タカは死に絶え、ハトも萎んでびしょぬれ、真っ赤に染まった鳥(けっして青くはない)がわらうような世界。この歌のPVに始終ヤギが登場するんだけど、このヤギが廃墟というか荒野の、生き物の墓場みたいなところで骨になっているところがあってああこのヤギ犠牲になったんだ、スケープゴートだって思った。終盤、街の中に生きたヤギが現れるんだけど、多分これ犠牲になる前のスケープゴートの生活圏なんだと思った。ごく普通の人たちをスケープゴートにして何を贖おうとしているんだろう?誰が?何のために?そしてスケープゴートの側には、お釈迦さまに自分の肉を捧げた兎とは違って自らを犠牲にしようなんていう意思なんてさらさらない。どうして死ななくてはいけないのか。どうしてこんな世界に生き続けなくてはいけないのか。どちらにしても世界にささげられた生贄には変わらない。

こんな世界になる前はチンケな毒を舐めて青い時代を過ごしていた歌い手(ここではユキちゃん)は風に嘆かれ迎えてしまったこの世界を陽気な蠅の歌を聴きながら過ごしていくことになる。ユキちゃんはあえて周囲の描写を避けているが、おそらく何かの焼けたにおいや焦げたにおい、血の匂い、生臭い匂い、あつい皮が破れた熟れ過ぎた果実(のような何か)やそれらにたかる蠅、錆びた匂いを雨が洗いながすとこなんかも知覚していたはずで、なんだけど、それをわざわざ自分の言葉で伝える必要が全くなくて、だって情報共有する相手がいないし、いたとしても多分今自分が一番伝えたいことじゃないんだろうきっとみんな似たようなものを見てるだろうし。聞きたいことは食料(エサ)のありか、確かな寝床、その次に余裕があったらキハのおかあさん探し、なのか?なんとなくユキちゃんは家族や友人、周囲との関係が希薄な感じのイメージで、なんだけど、今そばにいるキハのことは守ってやろうとしてる感じなんだよなあ。


**


「ねえキハ」
「なあにユキちゃん」
「ここもそろそろ移動したほうがいいかなと思って」
「そうだね。てかもうキハって呼ぶのやめて?俺ジョニーとかの方がいい」
「いいじゃんキハで。呼びなれてるし」
「俺がイヤ。なんかかっこ悪い」
「…ほう。キハももうそういうお年頃なんだ」
「なんかユキちゃんのその言い方ムカつく」
「誰の稼ぎでエサ食べれてると思ってんの?」
「俺だってもう一人で稼げますー つうかユキちゃんもう歳なんだから毎晩ぶっ続けとか無理しないほうがいいんじゃね?」
「だからってあんたにまだ女はムリ。おかあさんしか知らないでしょ?」
「なにそれユキちゃんがいるじゃん」
「は?ねえ冗談でしょ」


**


ご飯にありつけるまでは不機嫌にならない、夜の間は静かにするとか、長い流浪の日々に2人の間で決めたことが増えてきて、キハの夢も電車の運転手からもっと別のものになっていたり、そうこうして数年経つうちに、キハの母親探しもいつしか諦めて2人は食い物に困らない土地を目指し点々と歩を進めるようになったんじゃないかなあ。ユキちゃん達がどういう風に糧を得ていたのか。たまたま持っていた学生証が通用したのはほんの数年で、それからは途々で手管手練を身に着けていった感じである種の物々交換をしてたのかなあと思ったりした。で、下手に定住するとその土地の下層カーストに位置することになっちゃいそうから点々としている、みたいな。だったらいっそユキちゃん定住者の誰かの嫁になっちゃえば良かったんだろうけどその選択肢はなかったんだろうなこの2人には。この頃になると2人の間にも諍いがあったりして、心はりさける程に詰られることもあったかもしれない。2人とも年取ったらもうこんな点々と土地を移動するなんて生活できっこないけど、ほかの生活スタイルを見いだせず軌道修正できない。当方の筆力が足りないせいで一切書いてないキハの子供っぽさの足りなさ加減とか、ユキちゃんには幼少時の愛情不足を自分では補えてない感がひしひし伝わってるんだろうなあとか。だから自分の与えられる幸せはたかが知れてるって感じなのかなあ、ユキちゃんはおかあさんを越えられないんだから自分は一番じゃないって思ってるんだろうなあ。で、じゃあジョニーはユキちゃんそのものを好きなのかというと、やっぱりおかあさんの面影をかぶせてる節がありそうなんだよなあ。


**


「ねえユキちゃん、キスをするってのはふしだら?」
「別に。家族とかじゃなければ」
「じゃあ俺とユキちゃんがキスするのは?」
「ふしだら」
「なんで?」
「ジョニーとあたしじゃもう家族みたいなもんじゃん」
「俺とユキちゃん家族じゃないじゃん」
「ほーう?今まで誰に養ってもらったと思ってんの?」
「や、たしかにユキちゃん!ユキちゃんのおかげなんだけど!それと家族かどうか、ってのはまた違う。
 俺はふしだらじゃない方が良かったんだけど」
「キハがさみしそうにしてるからだよ、しょうがないじゃん」
「だーかーらー キハって言うなよっ」


**


どうしたらこの2人を幸せにできるんだろう?当方の貧困な想像力ではなんかいろいろと限界がある。諦めるくらいならおどけたキスを交わすこともあるし、時には夜通し歩き続けて空が白けてきた夜をダンスするみたいなハイなステップで進んでみたりすることもあったかもしれない。どうせなら幸せにしてあげたいんだけど、そもそもこんな世界を想定しなきゃいいんだよ!という意見が尤もかもしれないから今は全人類生贄計画大反対!とだけ言っておこうと思います。


散文(批評随筆小説等) 悲しみジョニー(詞:UA)を全年齢向けに解釈しようと足掻いてみたら残念なことになった件 Copyright (1+1)/4 2017-11-06 04:21:36
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