蟲動 より
沼谷香澄

生命に憑かれているというべけれ 湿原にずぶずぶと、足首

人食う、人の、目の、白、光、血を流し、たるは、食う顔、食え、サトゥルヌス

青空に白く小さい染み一つ仕方がないの有明の月

切り株に選択肢ありもうすこし空の近くを知る選択肢

包丁が夢を真っ赤に染める頃あつくぼやける山の輪郭

死んだから食ったのである 食ったから死んだのである 死んだのである

街道の脇によけられて死があった 食え。見られて名がつく前に

かよわいうちにやる 減っていく人間が誰かの生を確実にする

雲はいつ眠るのだろう白っぽい夜空に見下されつつ思う

新雪に鮮血を落としてみれば。汚く溶けるだけだ。ばかたれ

初出:Tongue第5号 2004年2月29日 原文縦書


短歌 蟲動 より Copyright 沼谷香澄 2017-11-05 19:37:15
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