きよらの賦
宮内緑


ここには昔きよらがわと呼んだ細流(せせらぎ)があった



なにもしらずにおもいつづけた
 あなたには こよない日々があったとしらずに
なにもしらずにさがしつづけた
 あなたには 涯ないそらがあったとしらずに

 淋しいから想いつづけたのではない
 想いつづけたから孤独だった
 おめかし好きの川蝉や
 凛々しい山翡翠ヤマセミだって飛び込んでくるほど 
 ほんとうは私の周囲も華やいでいた
 眼をみひらいていたのなら

青いわたしは信じつづけた
おもいがつよければかならず伝わるのだと
だからあなたもひとりきりでいると信じた
信じてやまないその日まで
きっとひとりでいてくれると

 あなたは炎えるようにあかかった
 それで私は赤色が一遍に好きになった
 夕べとよばれる瞬きを
 川原の石でも足りないくらい数えた
 秋とよばれる刹那には
 紅葉もみぢの筏をたくさん川下へおくった
 水引の花も 川蜻蛉の翅も
 婚姻衣装の錦鱗も
 私が育んだと いつかあなたに誇りたかった
 あなたにそっくりな色を
 ずっと数えて待っていたんだよと
 いつか伝えたかった

その日までただ励めばいい
どこまでも澄みやかにいればいい
いつかあなたとふたたびであい
おもいをうち明けられる日には
きっとわたしをみとめてくれると

 おさないわたし あわれなほど世間しらずで
 ほろほろと狭隘の谷地にながれた
 わたしの心を知る たった一人の私
 時を逸し 声にみたない願いに
 お互いを結びつける力などなかった
 私は大地を流れ 岩床に時をそそいだ
 あなたは空を翔け 赫く命を生きぬいた

なにもしらずにおもいつづけた
 夕ひはさかんにきょうのおわりをつげるのに
いつでもあなたをおもいつづけた 
 わたしのこころ かれはてるまで


自由詩 きよらの賦 Copyright 宮内緑 2017-10-30 02:46:55
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