山人

薪ストーブが煌々と燃えている
その上に遥かな時を巡った鋳物の鍋
穀物と野の草と獣の骨肉を煮込んだもの
それが飴色に溶け込んで
ぷすりとぷすりと
ヤジのような泡を吹かせている
端の欠けた椀を掲げ
木杓子でよそう
穀物が汁と共に椀の中でばらけ
汁で膨満している

その汁を飲め

老人は言った
見たこともない逸品を欲しがる生き物のように
私は唇を椀にあてがい、汁をむかえた
体中の髄に収まる密着とはこのことなのか
うまい汁である
悪癖をこそげ落とすように食道を落下していった汁
私の根元からこみ上げる息吹がある
吐き出した息を再び飲み込み
唇を柔らかく横に伸ばし
まっすぐ前を向き

うまい汁ですね
命の味がします

私は老人に言った


自由詩Copyright 山人 2017-10-28 19:27:46縦
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