アンサンブル
ただのみきや

フルート 高く舞い 歌う鳥
音を置き去りにひた走る稲光のよう
冷たい朝明けの空に溺れながら
命からがら 寄る辺もなくふるえ
ふるえながら鳴き叫ぶ――旋律


切れた指先で描いて見せる聾唖の夢
失って探しまわる 
なにか わからないまま
即興の内に幻視した
耳慣れぬことばで歌う女 乱れた髪と装い


天からも地からも捨てられた鳥
始まりと終わりのもつれ――旋律
切断された足
掴む形を二度とは持たなくても 
感覚だけはひそやかに
考えるより 先に待ち伏せる
いつも突然に


希薄な大気が幾重にも纏わって
霜つく羽根の 凍る瞳の
奥に 消えない 微かな火が
胸から裂けて迸るように
叫び歌うフルート 高く 遠く


太鼓 どよめく大地に
揺れる草々 萌える草
石鹸も買えない人々の饐えた匂い 
叫びと嗚咽の危うい規則性――リズム
夕陽を受け切れず煮え滾る海
うねる肉体 皮を張られた虚ろ
殴打される呪具たち ガムラン
苦痛と陶酔は溶け混じり回し飲みにされる


翼を捨てた者たちは捧げるだろう
石化した両の眼と
枯れたシロツメクサの冠を
乾き切らない罪責感を添えた絵皿で


肉体の文字盤 ダウジング
揺れるナイフ 円の収束
直立するはらわた 蛇使いの笛
マゾヒストのルビー
乖離した夜 混沌の朝
ゆっくりと倒れながら水に変わって往く
斜塔のような女の残された吐息のH


アンサンブル――腐敗と悲哀
不協和音と変拍子
即興詩と自殺者の
無限に奥へと重ねられたカンバスの
白さへ回帰できない 傷んだプラムの微笑


忘却の封を切る甘ったるいインド香
目蓋の上でそよぐまだ温かい指先が
バターナイフのように差し込まれ
深みの魚がおびき出される 最初に
声を失くして歌を孕む そして
鳥が墜ちる銀の矢のように すると
わたしは歌うように踊る 炎のように
白い煙と黒い燃え滓を残して ひとつの


――楽曲が終わる 
予見できる死のように 尚も 突如として


鳥はさまよい続ける
     わたしの空を 高く 遠く




               《アンサンブル:2017年10月25日》









自由詩 アンサンブル Copyright ただのみきや 2017-10-25 20:52:43
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