わるそうぱくと
竜門勇気

僕はまだ未成年だっただろうか。
いや、そんな”未”とか“既”とかではなかったから
僕はその時もう今の僕とかわりなかったろう。
友人にさそわれてライブに行った。
メインはかっこいい顔をしたかっこいいバンドだった。
でも目当てはTASKEっていう日本唯一のカシオトーンを軸にした
アーティストで、そうだ、沖島一郎さんっていうウクレレで
すげーいい歌を歌う人とかも出てたかもしれない。

そんな感じで僕らは岡山ペパーランドの軒先で酒を飲んでいた。
友人も飲んでいたのでその日は車で一泊することが決まっていた。
これは僕らのいつもの暗黙の了解で「のみてぇな」「のみなよ」と
二言だけ交わすのだ。
そして一応、帰る前に「俺飲んじまったからな」「寝て帰ろうぜ」
全てはこともなし、そして車に乗り込みもう一度飲み直す。
次の日の夕方、目を覚ます。
車の中で寝ていることもあったし、そうでない日もあった。

開演の時間になり、物販をあさっている連中もペパーランドに吸い込まれていく。
ペパーランドの2枚の防音扉を開けて、中に入る。
外で騒いでいるパンクスがスタッフに注意されて声をひそめて喋るのが聞こえた。
扉の中は前日の騒ぎの匂いがかすかに感じられた。
それは、酒の匂いとか、タバコの匂いとかあるいは血の匂いとかであるのだけど
そいつらをちゃんと片付けたんだと感じられるいい匂いだ。
水の残った床を踏んでいた。

そしてワルソウパクトはやってくる。
衝撃だった。
繰り返されるリズム、機材はわからないがなにかをループさせているだけだ。
曲が終わるとドラムループが終わる。計算されている。
ちいさなおじさんがぼそぼそとMCをしたあとまたそれが繰り返される。
美しい。そう思った。
純粋な音楽だった。メロディや、サウンド。それは無意味だったのかもしれない。
観客はまばらで、照明が前から光っている。
僕はその影を縫うようにワルソウパクトを見ていた。
最近、ひき逃げにあったと言っていた彼は
楽曲も、ひき逃げ犯を許さないことに重心を置いた構成でライブを行っていく。
音楽は思いだ。思いこそが人だ。そう思った。
演奏はいつの間にか終わり、終わったものは帰らない。
ワルソウパクトは去っていった。
そうしてステージから衝撃は消えた。

次の演奏までの時間を潰すために外に出る。
また二つのドアをくぐる。
ポケット一杯に広告を持って出る。
ワルソウパクトがCDを並べて佇んでいた。
「全部、ひとつづつください」
そう言うと友人も続けて同じ事を言った。
「これとこれは、一枚しか持ってきてないんです・・・」
なぜ、物販に一枚だけ持ってくるのか。
じゃんけんの結果僕はこの場でのすべてを手に入れた。
CDRにコピー紙でジャケットをつけたものだった。
ねぐらに帰る。カーステで聴きながら眠った。
分かったことがたくさんある。
ひき逃げ犯は許されないし、ワルソウパクトは今夜、僕らと眠る。


散文(批評随筆小説等) わるそうぱくと Copyright 竜門勇気 2017-10-09 02:24:58
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