タオル


私は手提げ袋をぶらぶらさせながら
坂をのぼっていた
そうしながらよく似た家々の
それでもはっきりたちのぼってくる個性のひとつひとつに
ていねいなあいさつをしていく
首をわずかに動かす程度のあいさつさえも
家主たちと交わさぬというのに


あの家は窓が開かない
わかっている
あすこの洗濯物はずっと濡れたままだ

ガラスには白々と花びらが貼りついて
バタン、とドアが閉まる

ほったらかしの花水木が今年も満開だ

「まだですか?」
私は窓口にぬっと顔を出して聞く

「終わりました」
と係員の声。

どこから始まったかもわからないのに 終わった

花水木の花びらは掌に似ている

私はまた手提げ袋を持ち直す

胸いっぱいに薄闇を吸いこみ坂をのぼる




自由詩Copyright タオル 2017-09-28 22:19:09
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