好き嫌い
ただのみきや

笑い声は好きじゃない
怒鳴り声も号泣も
演説も告発も
講壇やテーブルをガンガン叩くのも

古い写真の笑った顔が好きだ
どこかの いつかの 誰かさん

笑い声は好きじゃない
だけど幼子は別
笑い声も 泣き声も
四六時中だと余しもするけど

かっこはつけているが生きることに不慣れな男と
自信のなさを隠せないで遠慮がちに甘える女の
なにかが重なり合い うちとけた(気がして)
少し浮いたトーンで嬉しそうに
言葉を掴んだり差し出したりする様を
通りすがりに見るのは嫌いじゃない
修羅場を見るよりはよっぽど

誰かの気まぐれアスファルトに咲く徒花
鏡の前で恋の仕草するインコ
悲しさと滑稽さの色積りが好き
帰る季節のない炭のような椅子が好き
月日に深く埋もれれば埋もれるほど

芋版みたいな正論
編集された真実
オブラートだけでお腹をいっぱいにする
熱心さ 我慢強さ
本当は生臭いものが大好き

歌声が好きだ
子供らの合唱も
酔った老人が歌う昔の流行歌も
はじめたばかりの下手くそなバンドも
ヘッドホンをした娘がつい声に出して口ずさむのも
――嘘だ
嫌いな歌は嫌い
嫌いな人は嫌い

笑い声は好きじゃない
嫌いじゃない時もある それが
自分のせいなのか相手のせいなのか
好きと嫌いはよく似ている
裏と表どころじゃない
ひとつのやわらかな流動




          《好き嫌い:2017年9月20日》










自由詩 好き嫌い Copyright ただのみきや 2017-09-20 22:51:48縦
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