短詩八編
本田憲嵩

   「字源」


ある日テレビを見ていると
アスペルガーと思わしきとある女性タレントが映っていて
こんなことを言っていた
「人」という字について
こんなことを言っていた
「人」という字はヒトとヒトとがささえあって
できているのではなく
あれは弱者(短いほう)が圧しかかる強者(長いほう)に押しつぶされて
なりたっているのだと
いっしゅんその番組内の空気が凍りついていたのが
とても印象的だった


それはもちろん間違いで
ひとりの人間が脚をひらいて立っているすがたが
字源なのだと
謂われているのだけれど
それはぼくには紛れもない真実のように思われる
真実だからこそ
あの場の空気が凍りついたように思われる


自分の書く詩もこのように
真実で
「人人」を凍りつかせるようなものでありたい、
と、
せつにせつに思うのだ


  「ネイル」


女が尖った長い爪に
変な色のネイルしてて
男がその女を口説くために、
「お、ソレ良いね!」
なんて、
ウソ、
ウソばっかり!


男が女との性行為の最中に 、
「妊娠してもかまわないよ!」だなんて、
断言するけど、
ウソ!
ウソばっかり!


男が女と再婚するために
女の連れ子のことを、
「君と同じくらい愛するよ!」とか、
「実の子のように愛するから!」なんて、
またもや断言するけど、
もちろんウソ!
ウソばっかり!


世のなか、
ウソが多いから生きづらい、
ウソつきは、
ヒットラーのはじまり!


   「祈り」


理不尽な労働のあとの
黄ばんだ腋臭くさいシャツのように


あるいは劣情のあとの
精液の黄ばんだティッシュのように


あるいは決して取ることのできない
白い便器の黄ばみのように


女たちが
思わずその目を逸らす汚物のように


――私の詩よ、
いつもまぎれもない真実であれ


   「容姿」


巨大なトロール族の女王が
棍棒を片手に
こちらに向かって歩いてくる


その口からはヨダレを垂らし
そして舌を出し
その貌はいかにも凶暴そうだ


この人の性格も
その歩んできた人生も
とても凶暴なものなのではないか
と感じてしまう


ついつい見た目で
その人を判断してしまう
ついつい見た目で
その人のすべてを決めつけてしまう


   「排出」


ぷりぷりぷり?あるいはぶりぶりぶり?固体と液体の中間物が排出されるときの擬音表現のひとつとして、すなわち糞を排泄するときの効果音として。人はこれらの言葉を発するとき、その唇と唇の隙間から千切れた小さな糞を放(ひ)り出している。


   「時の果実」


カチ、カチ、カチ・・・、


時の果実を秒針が絶えず喰らう、噛み砕いてゆく、そのわずかに滴り落ちた汁をぼくらの耳が口となって啜るのだ。そのあまい汁を。ぼくらの心臓は脈打つ。
そうして秒針からも我々からも放(ひ)り出された糞は過去である。


   「モジャ公」


「わたしは常にあなたたちの下半身とともにある。


   「半ズボン」


たくさんの秘密を分け合おうよ
魔女のように下卑た笑みをいっぱいに浮かべながら
沸きたつ好奇心に駆られながら
たくさんの楽しいことを


たとえば男子トイレの
鍵がかかった個室のドア
となりの個室の壁の上から
こっそり覗いてみると
それは校長先生だったときのような
思いもがけない楽しさ



自由詩 短詩八編 Copyright 本田憲嵩 2017-08-23 21:55:11
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