自転車
鷲田

コンビニエンスストアに立て掛けてある
古びた自転車
持ち主は失踪した
所有権という日常を放棄して

自転車のブラックの塗装は
剥がれかけ
座席のカバーには切れ目が入っている
誰かがナイフで切り裂いたのだろう
役割を消失したガラクタ
もう走ることはない

日々の暮らしの意味
コンビニエンスストアの店内では
商品の売買が繰り返され
需要を満たした客という人間達は
適正な値段の適正な満足を手にし
帰宅していく

夜の街
公園に灯る人口の光
夜祭で一頻り遊んだ子供達
夏の空気は湿っていて只管に熱い

自転車は日常から忘れられた
寂しさという感情も持たずに
残っているのは一つの画
壁に寄りかかった金属の
夏の夜の一枚の静寂


自由詩 自転車 Copyright 鷲田 2017-08-22 21:53:49縦
notebook Home 戻る  過去 未来