夜と朝のおとぎ話
三輪 農森

君は知らないだろうよ
夜の向こう側には
大きなぜんまい仕掛けの
塔があるのさ

何の塔かってそりゃ
時をつかさどる塔さ
てっぺんには風車がついていて
時間の風を受けて
ぐるぐるぐるぐる
ひっきりなしに回っているんだ
何にせよその塔がなければ
世界中の時間は
壊れてしまうんだとさ

やはり君は知らないだろうがね
早朝、道端を歩いていると
景色が青い光に包まれて見えるのは
“きょう”という果実が熟していないからさ
まだまだ酸味が強くて
食べられたもんじゃない
あぁ、夕暮れ時がいいな
どの景色も味わい深いものさ

さすがの君もご存じかもしれんがね
一般に、季節の食べ頃はやはり秋だ
これはここだけの話だが
何事も終わりを感じる頃が
最も美味しいのさ
なぜってそりゃ悲しいからさ
悲しくて可哀想で愛しいからさ
少ししょっぱい話だがね
さよならだけが人生だ
それが愛ってやつの正体さ

おやすみ
もう寝たかい?
そうだ、よく眠るんだ
大切なのは眠ることさ
悲しいときは眠ればいい
何も考える必要はない
悩む必要なんてないんだよ
目を閉じて
真っ暗な闇の向こう側に
大きなぜんまい仕掛けの塔があるだろう
あの塔のてっぺんでは
風車が片時も休むことなく
回っているんだ
あの塔がいつからあって
いつ終わるのかは分からない
僕はいつかあの塔へ
行ってみようと思うんだよ
なにせ、分からないままでは
恐ろしいからね

こんな話、君にとっては
毒にも薬にもならない
つまらない話かも知れんがね
それでも一番伝えたいことなのさ

だからおやすみなさい
また明日、僕はここにいるよ


自由詩 夜と朝のおとぎ話 Copyright 三輪 農森 2017-08-12 17:31:52
notebook Home 戻る