ベン ト ラッシュ
松岡宮
蓋のよわい弁当箱が
通勤電車のトートバッグのなかで祈る
どうかわたしを揺らさないで
これ以上傾けないで
シル きゅううん うう
終点の駅までもう少し
ぎこちない指を組んで祈る
「俺 カレー ヤベー」
隣の男性の弁当箱も祈る
シル知られませんよう
それから先頭車両の蓋のよわい弁当箱たちは手を取りあってダンスをはじめる
シルこぼれませんよう
シル汚しませんよう
シル遺漏なきよう
シル瑕疵のなきよう
あ だめ
ひゅううん ん ぎ。
「前の電車が駅に停車中です。信号が変わるまでしばらく停車いたします」
徐行運転の運転士も祈りはじめる
西の台地に備え付けられた地震計のわずかな羽音に耳を澄ませながら
祈りはじめる
しょうゆ味
カレー味
酢味噌味
トートバッグの中で混ざり合う
すべての蓋のよわい弁当箱のために
自由詩
ベン ト ラッシュ
Copyright
松岡宮
2017-08-08 18:53:39