鞴  -ふいご-
藤鈴呼


あなたが ゆっくりと 息を吸い込む

「ふいちょう」
唇が その形に動く ゆるやかな流れとともに 水の音が響く
雨なのか 風なのか さざめく空気感は いつだって おんなじで

記号の向こうに忘れかけていた風が見えた気がしました

「ふいちょう」
唇を すぼめたままのアナタが
少しだけ ニヒルな角度に浮かべた 唇と唇の間の一本線が
何時からか 二重に見える

きっと眼鏡が合わないのだ
きっと 泣いているのだ
もしかしたら 近眼なのかも知れない
根暗だったのかも知れない
塒(ねぐら)なんて 探さなくても 見つかるさ

君はそう言いながら 湖に ゆっくりと浸かる
「ここも 気持ちいいよ おいで」
案外 想像に難くなかった 君の行動
その先に オールがあるって 解っていたら
ボートなんて 作らなかったのに

夢のボート 浮かぶ
ぽろろんと響く 鍵盤の音が 揺れる
今度は 灰色に

ふいごのようなゆめ とけた
パンと鳴らした掌が痛くて 思わず目を閉じた
そのまま 昨日の夢の続きを 夢想している
蒸し返そうなんて していない
ただ 夢現の現実と仮想現実とドッキリゲームが続くから
「ふいちょう」
少し 息苦しく なった だけ

★,。・::・°☆。・:*:・°★,。・:*:・°☆。・:*:・°


自由詩 鞴  -ふいご- Copyright 藤鈴呼 2017-07-28 08:51:16
notebook Home 戻る  過去 未来