手を打つのこと
はるな


わたしは、むかし、少女で、女なんてもってなかった。
街灯も、ベルも、雑誌にのってるカフェも、おんなじように憎かった。
破綻した恋をしていて、みじめで、ときどき幸福だった。
だれも、わたしじゃないのだとおもうとき、みじめで、幸福だった。

電車はわたしを運んでくれる。
家では(わたしには、家がある!)、ソファで、むすめと夫がきっとねている。
そこで眠るつもりじゃなかった、というかっこうで、夏の真ん中に冷房をきかせて、はだをひんやりさせて。よく似た寝顔で。
ぱん、
と手を打ったなら、消えてしまいそうに思う。
ソファも。むすめも、夫も。夏も、冷房も、家も、電車も。わたしも。
でも、手を打つことができない。

もうずっと、打たないでいる。



散文(批評随筆小説等) 手を打つのこと Copyright はるな 2017-07-25 22:45:22
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