女神の抱擁
ただのみきや

Venus flytrap
抱擁から解き放つと
――心臓から飲まれていたのはわたし
黒い孔雀は飛び去った
眼差しの影ひとつ 
落とすこともなく 
時の支流が無数に重なり合う彼方へ
ひとつの座標となって
澄み切った永遠を想うことで
存在を朧にする星のように


かつてすべてであり
かつて一部であった
養い子――捕えたのか寄生されたのか――は
いまや野生の妖魔
躊躇いもなく
繋がりもない
――解放されたのはわたし


冬枯れの荊が萎れた果実を取り囲む
風通しの良い襤褸 白骨の女神は
静止して 漲り 笑う 嘘のように
永劫不妊 空白に潜む
機械的母性 パックリと開いた


やがて震えながらひとつの点が
蠅の気流の囁きで
その睫毛を刺激する
Venus flytrap
女神は抱擁するが
その乳房はわたしの心臓
乳はわたしの血
啜られながら消化して
殺しながら育てている
彼女の抱擁が解かれるまで
そこになにがいるのかもわからないまま




             《女神の抱擁:2017年7月22日》












自由詩 女神の抱擁 Copyright ただのみきや 2017-07-22 21:40:25
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