遠くへ
藤鈴呼


百日紅が咲き始めた地上は非常に暑く
閉口することも許されぬほどに膨らむ
ペットボトルを握りしめて 叫ぶ
薄く気化した炭酸を 追い駆けては
呟きの友と語らう 夢の中

背繋げに啼く鴉の群れが
まるで 白鳥の如く V字に広がる
坊や 大きくなったら 何処へ行きたい
問いかけた台詞が 湖の奥へ 沈んだ

忘られるなら 遠く 空の向こうへ
あの 飛行機雲を 追い越せるくらいまで
舞い上がって 踊れ
白鷺の花のように 象られた花が浮かぶ
水面に口づけるのは 干からびた 鳥の嘴

憂いの刃よ
切っ先を掠めたのは 緑の葉たち
大きすぎて 傘の花をも 包み込むくらい
そのまま 静かに 影を閉ざして
見えなくなるくらいまで

夕餉の時刻が近付けば 聴こえ始める
蜩の かなかなかなかな
タイピングの音と 何処か 似通っている
唇の端を歪めながら 自嘲気味に微笑う 
あなたの表情にも 似ている

照り付ける 焦れた灰色から零れだす光
歩いてみても 足跡を探しても
全てが 繋がって行くことが 滑稽で
抜け出せない トンネルの向こう側
爆破する程の勇気は ない癖に
朝焼けまでは 待てないのだから
月の女神に 少しだけ 心 救われる

一枚 二枚 数え始めれば キリがない
遠くへ 行きたいけれど
船が 見つからないの
壊れたオールを抱えながら
唯だ 泣いている
とても 静かな声が 聴こえる

かなかなかなかな
変換できぬ程の 高速で認めた文字の向こうに
隠れてしまうくらいの
小さな つぶやき

★,。・::・°☆。・:*:・°★,。・:*:・°☆。・:*:・°


自由詩 遠くへ Copyright 藤鈴呼 2017-07-19 09:36:08
notebook Home 戻る  過去 未来