タモトユリ
藤鈴呼



白い刻みの中で震える存在
颯爽と走る湿気の中に巣食う種は
一粒ずつ 欠片となって降り注ぐ 雨のよう

時に雹となり 我等を脅かすけれど 心配ないよと
優しく広がる両手の如く 柔らかな花弁が 
胸に痛むのは何故

言い聞かせても 馨しさには叶わない
願いを込めようとして 
何を祈るべきか 忘れてしまう夜のように

静かに 美しさを称えようとも 
共に見る相手がいないのは
とても寂しいのだ

目の前で揺れる花びらが 何時からか高貴に満ちて
楽しげな歌声は 何時からか疑惑に墜ちて

不協和音だと信じたくない位に
耳障りではない音列だったから 気付かなかった
そこに 一輪の星が 瞬いて いたこと

百合の花粉は 白いシャツに染み付いたら離れない
二度と手を離さないと誓う 恋人達のように
イラナイ口紅の後よりも もっと 厄介なのだ

袖の下に隠した金貨 いちまい にまい
三枚目が必要なのに いちまい にまい

断崖絶壁の光景など 想像するだに 御免だ
足を伸ばして にじり寄ってみても
この身を 支えられるとは 限らないだろう

その足先に埋め込まれた石粒が 
今直ぐ砕けぬと 何故言える
何故癒えぬ 

居住まいを正して 少し痛む腰を引きずって
白い湿布を貼り直して 少し歩いた
追い駆けて来るのは 百合の優しさ
馨しさだけ そのままにして

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自由詩 タモトユリ Copyright 藤鈴呼 2017-07-12 05:08:40
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