名前
小川麻由美

時々開けられる引き戸から差し込む明かりは
身じろぎもせずに居る私にとって迷惑この上ない
引き戸ごしに聞こえてくる喧噪も静けさも
今のこの私にとってはなんら関係ない
徐々に変色してきた体に始めは違和感を感じたが
もうどうでもいいことで 私の一部が粉となり
周囲のもの達を染めることに何も抵抗がない
色づいたもの達は不平をこぼすこともない
不平をこぼすには口というものが必要だからだ
時々やってくる地震で私は寝返りをうつ

その日は突然やってきた
私とは質感が違う柔らかく動くもので
いとも簡単に明かりで満ちた場所に引きずり出された
その明るさに慣れたころである
今度は記憶に残ってるのが不思議なほどの
陽光にさらされ のっしのっしと運搬された
その場に着き 投げ出された私は声を出すこともなく
ただただ陽光を感じ これが痛みというものかと思う
せめて日焼け止めを塗る時間くらいはあっただろうに
私を運搬した者は随分と大きくなったという印象である
いや逆に私が小さくなったのかもしれない

周囲の気配を感じるとそこは茶褐色の世界だ
私もその一端を担っていたのだ
いつかどこかの映画監督が茶褐色の映画を撮りたいと思えば
私達はうってつけなのかもしれない
なんら関連性もないような事を思い行動もしない
それが私の日常で取るべき態度くらいはわかってるつもりだ


自由詩 名前 Copyright 小川麻由美 2017-06-30 05:49:39
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