kissはチョコの味
渡辺八畳@祝儀敷

模型のようなチョコレート工場が頭の上に浮いている
私の身体は検体かのよう堅いベッドに固定されている
七色の熱電球が工場を派手にデコレーションして
轟々鳴る機械音は蛮人の儀式のよう響き渡っている

外を通過するトラックのライトが部屋の壁を刺す

おもちゃサイズのチョコレート工場はまるで
亡霊
工場に眼球などあるはずもないのに
私が微細な動きさえもしないよう
無機質のそれは冷徹に見張ってくる
チョコレート工場だというのに陽気さはひとかけらもない
壁面の鉄板には呪詛が刻まれているよう錯覚してくる
血液が消えていく 身体は動かない
かわいらしい大きさとは裏腹の暴力的な機械音は
生物を命あるまま砕いているかのようで
変わらず鮮やかに光っている電球は
工場から漏れ出た屍の怨念ではないだろうか
首を回して目を逸らすこともできない
私は生きていないかのよう
暗闇に薄く見える自室のカーテンや天井たちは
昼間と全く変わらない様相で静かに眠っているが
対して機械音は容赦なく増していくばかり
存在感は異空の穴のよう重く
その一点だけが歪んで見える
血のようなチョコの臭いはいたずらに鼻腔を刺激し
体躯を真っ直ぐに伸ばしている私は蝕まれるよう犯される心地だ
筋肉が収縮する 心臓だけが興奮している こわい
浮遊している工場は
化物のような金属音を急停止させたかと思うと
鉄門を開放し中から尾を引いて
白肌の魔女が出てきた
発光しているかのようなブロンド髪と青い瞳が
動けない私の顔を捕食するかのよう撫でる
魔女の口にはできたての小さなチョコがくわえられていて
そのまま私の上に飛び乗り 甘いキスをした

視界さえも消えた


自由詩 kissはチョコの味 Copyright 渡辺八畳@祝儀敷 2017-06-30 04:49:34縦
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