木ノ声
服部 剛

夜の砂漠の果てに
無言の姿で立っている
ひとりの木

枝々の短冊は夜風にきらめき
忘れていたあの歌を
旅人の胸に運ぶ

――君の夢は何?

思春期に使い古した言葉は
遠い記憶の最中さなかに甦り
ひとすじの声になる

どんなに年老いても
日々に立ちこめるもやを掻き分けて
生臭くぎらつく、あの頃の
夢の欠片かけらを離さない

夜の砂漠の果てに広がる
星屑の下
いつまでも立っている
ひとりの木よ
もう一度、教えておくれ

あの日、傷ついた旅人が短冊に記す
物語の続きを

いつまでも
心象風景に立っている
ひとりの木

枝々の短冊は仄かに煌めいて
無言の歌を囁いている

夜明け前  






自由詩 木ノ声 Copyright 服部 剛 2017-06-27 17:14:01縦
notebook Home 戻る  過去 未来