感情表現、が欠落していく。
木築

「殺そう、と思った瞬間になにかが死んでいる」

ぼうとした目でそう呟き、
手からこぼれたなにかを探り、
不思議そうな顔をしたあなたに、
もう失ったものはみつからないし、
失ったなにかになんて興味もないね。


そうしたものは忘れられ、
まばたきした先から途切れ、
記憶は明日へと向かって進む。


「わたしはあなたの意味のあるものでしょうか」


失うものに意味がない、
そんなことにほんとうは、
消えてしまった価値がある。


「殺そうと、と思った瞬間になにかが死んでいる」
ぼうとした目でそう呟き、
失ったなにかを探さないで、
うつろな目で画面を見ている、
その目がすこしいとおしいんだ。


むなしい。
いとしい。
かなしい。


殺してしまったもの、
そういうもののひとつ、
わたしの目の前にあって、
びいだまのように透かして、
ちらちら輝くさまを見ている。


失ったものはそれだけでいとしいね。
わたしだけに見えるわたしのかけら。
そこにはあなたの意図や意思がないね。
「殺そう、と思った瞬間になにかが死んでいる」


自由詩 感情表現、が欠落していく。 Copyright 木築 2017-06-27 16:50:15
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