見上げれば
藤鈴呼


空から落ちてくる何かを
咀嚼しようとして
すっと伸ばした舌先を
寸での処で引っ込めたのは
雨粒の不味さを 体感したから

あれは屋根の雪
が 数日を経て象られた 氷柱
美しい刃先のようにも思えて
佇んでいた

ドサッと言う音と重さの全てが 
舌先を直撃し
真白だった雪の国に
要らぬ血液が 流れ始めた

屋根から外れた梯子が
所在なさげに
もう これ以上 
取り繕えないんですと嘆く
夫婦喧嘩のようだった

人は刺されたら 痛むのだろうか
肉片は 煮物を作るみたいに
フォークで穴を開ける訳には 
行かぬもの
ちょっと 息苦しい毎日が 
続いたとて
開けた穴が 塞がる保障も 
ないのですから

窓を開けると きな臭い
さっきまで 五月蠅かった
サイレンが
ひとしきり唸った跡 
気が済んだと見えて
訪れたるは サイレント
そんな 悠長な事 
言っている場合では なかった

回転灯を閉じた車は 
ただの梯子車
もう 屋根から
落ちる必要もない氷柱が
行方不明の太陽を探そうと
必死で 煌めいていた

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自由詩 見上げれば Copyright 藤鈴呼 2017-06-16 10:48:25
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