時鳥
るるりら

【時鳥】

ある一時 
保育園のときのセリフは  小鳥の役柄だった 
「ニュースだよ ニュースだよ たろうさんのお宅に あかちゃんができたよ」 
小鳥役の私が 時空のかなたからやってきて、二十四時間後には だれかれ関係なしに
おおきな声で 宣言するだろう

ある二時
鳥のように生きることを夢想する。
いちじは 卵のようだった 
にどめには 親鳥に守られ 三度めには成鳥のように生きる 

ある三時
空の高さを鳥が示している 声は高くまで響いても 声の向こうにある天空は
さらに はるか。 
きままな鳥が、私のことを「ピープル」と呼んだ。トンビにも「トンビぃ」と言ってあげたいが
私の返事は鳥には届きはしないだろう ピープルだという鳥の声だけが リフレインする 

ある四時
清潔に あらためられたカーテンを 風が部屋のこころを ゆらしている 
ケサランパサランの寝床をととのえるかのように シーツも 取り込む
あまい匂いがするのは 近くに パイナップルミントが群生しているから

ある五時
こんどは ホトトギスが 鳴いた
新築の窓辺にも あの鳥は きっと訪問するだろう 
タンポポの綿毛は まだ 飛び立ってはいないが 植物だって鳥になる日がある

ある六時
げいじゅつてきだね。 ああ ホトトギスが 「げいじゅつてき」だと言っている 
夕方の花の水遣り。ホースの先で 虹が現れたことが「げいじゅつてき」
蕗の葉のやわらかいところだけを虫が食べ跡は うつくしいレース模様なのが、 
げいじゅつてき げいじゅつてきだね げいじゅつてきだね ほら あなたにも聞こえるでしょ

ある七時
すこし日が影に あしもとに差し込む光 しずかに うまれるながい影
鳥のように生きることを夢想する 飛沫を思わせるような囀りで愛を語るのだ
囀りに きがつかずとも さりげない思い遣りのような言葉が しじまを彩る

ある八時
そして ある九時
あるいは十時

ホトトギスが鳴いている
少女は いつしか絹をまといピアノフォルテの音楽の中で 大人となり
クロスする時計のことを忘れていても ホトトギスは歌い続けている

ある十一時
瞼をとじれば どんな生き物とも心を通わすことができる 
なにものでもない自分に もどるための歌を ホトトギスが聴かせてくれている

ある十二時
一組の恋人同士が 同じ夢をみた。
ふたりが 翼の両翼ように羽ばたいたとき ぷっくりとあたらしい命が芽生えていた


自由詩 時鳥 Copyright るるりら 2017-06-05 19:07:51
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