喚き散らす肉
ただのみきや

なにもない
わたしのなかには
わたしがいるだけ
気だるげな猫のように
死後硬直は始まっている
小さな火種が迷い込むと
すぐに燻り 発火し 燃え上って
肉の焼ける匂い
骨が爆ぜる――生枝のそれのように乾いた笑い
見てごらんわたし
どんなに焼焦げても崩れない死体を
他人ならではの憐憫の眼差しで


地図にない湿地帯の
奥の奥
ふたりで骨になろう
絡み合った一対の白骨に
自殺なんかじゃない
心中とは言わせない
互いの自己実現と
常軌を逸した恋情のため
ふたり共食いして



――残像だ
若き日に乖離したものが
いま目の前に揺らめいて
手を伸ばすわたしを
奈落の泥土へと誘うが
それすらもはや浅瀬にすぎず
沈むことすら叶わない


脆弱なまま強くなり過ぎた
死なない死体を担ぎ続けて
極地の氷が解けるように
わたしはわたしに入り混じりながら
あなたという異物に餓えている
心臓のように
空虚な痛みが通路になって
見えない戦車がやって来る
雲雀は歌う
伴天連の黒い切腹を
清々しい地獄の青さに




             《喚き散らす肉:2017年5月13日》











自由詩 喚き散らす肉 Copyright ただのみきや 2017-05-13 21:05:34
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