泣く鬼
田中修子

たましいが
夜に錆びたぶらんこのように鳴っている

どこへいったの ねぇ わたしの半身たち
あざの浮かんだ あなた
詩を書くのがじょうずだった あなた

半身がふたり 抜け落ちた わたし
ほんとうはもう がらんどう

生きることは地獄 とても浮かれた

白い病室のうえ 青い空に浮かぶ雲
お釈迦さまが蜘蛛をたらすの わたし みていた
痩せこけて目と腹の飛び出たかわいそうななかま
糸切れてペシャンコになった
したでわたしもグッチャリつぶれ それでも死なないイタイイタイバァ
あくほうの片目でみつめる 雲の向こう お釈迦さまのお顔

唇のはしがヒクついてらした

もっとほんとうに やさしかった あのお顔
わたしの覚えてる あのほほえみ どこいった

-自分で死んだら 地獄へゆきます 先生がそうおっしゃっているのだから
それにあたし 考えるの めんどうくさいの
上の人が 考えなくていいっていうから あたし考えないの-
-あの子たちはね あんなめにあって
命を絶つしか ほかになかった
それでもあの子たち 地獄にゆく、という
あなたがいるつもりの そこ-

かわいそうに お釈迦さま
ぶくぶく太った生き仏さまの
乳房からでる乳で炊いた
お粥を食べてしまわれた

笑いがとまらずにいる血みどろの鬼
慈悲をくださりたい生き仏さま きみわるそうに あとずさり

-なんで何も信じないで生きていけるの-
-信じてるあなた とても 苦しそう-

釜で炒られて 針食わされて 八つ裂きだって さぁどうぞ
からだのいたいのなんて たましいにくらべりゃ たいしたことないわい

お釈迦さま 金にひかる雲の向こう
ふっと視線を逸らされて
とじる天


自由詩 泣く鬼 Copyright 田中修子 2017-04-28 00:29:23
notebook Home 戻る