あしあと
虹村 凌

実は二十七歳とか三十前とかに死ぬんだと思ってたんだ
別に悪魔と契約した訳でも無いけれど
気付けばおめおめと生き延びてる事に気付いたんだ
別にそれが恥の多い生涯でも無いけど
さっさと和了って死にたいと言う人たちを横目に
寄り道をしながら流れ星でも待とうと思うよ

それは射精にも似た甘美な匂いでした

真夏の夕方に飲んだラムネ越し覗いた空の様な
もしくは飲み過ぎてしこたま吐いた後の様な
二日ぶりに倒れ込んだよく乾いた布団の様な
薄く黄色く青白い匂いを
音を立てずに肺にしまい込む
それは何の匂いかわからないけれど
もしかしたら煙草をやめて良かったのかも知れない
壊れかけた鼻腔の奥にある細胞たちが
少しずつ色を取り戻し始める

それでもその匂いの先は想像ができない

来年の桜はどんな色でしょうか
再来年の台風はどれほど強いでしょうか
五年後の夕立はどんな匂いでしょうか
十年後の秋はどんな音でしょうか
季節を越えるとはどんな意味でしょうか
二人で湯船に消えていけるでしょうか

今日も交差点で悪魔を探していますが
煙草をやめてしまったので
上げる狼煙がない事に気付きました
あなたは見つけてくれますか
あなたの匂いを辿って
そちらまで


自由詩 あしあと Copyright 虹村 凌 2017-04-27 22:38:10
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