悠久アンダーグラウンド
薔薇の人

少し肌寒い部屋の中で、ぽつりひとりぼっち
寂しさを紛らわそうとして
お酒と適当なお薬を飲んで静かに横たわり
効果が表れるのを待った。

何が寂しいのかも分からずに
ただ空虚を埋めたくて
ただそれだけのことで。

しばらくして、地面が揺れている感覚に襲われる
視界もなんだか定まらない
とても喉が乾いて、ベッドから立ち上がろうとしたら
足が縺れて、そのままベッドに尻もちをついた。

脳味噌がとろけているような
そんな感覚を覚えた私は思わずひとり空笑いをした
これがラリるってものなのだろう
ずっと苦しみ、悩まされていた寂しさは失せている
孤独に苦しんでいたわたしを
お酒とお薬、たったこれだけのものが救った。

単純なものなんだな、人間って
その日から私はケミカルに脳を委ねることを覚えた。

昨日今日明日からもずっと
こうしていられたら良い。

いくらか下界も綺麗に見えるかもしれないと
おぼつかない足を引きずって窓辺へ向かう
閉め切っている漆黒の遮光カーテンをあけてみた。

太陽が私を見つけて陽光を強かに打ちつける
眩しい。でも、悪くはないと感じた。

そのまま窓も雨戸も開けてバルコニーに出る
先ほどよりもお薬が効いてきたようで
よたよたとしながらもバルコニーの塀に辿り着き
そっと頬杖をつきながら久々にみる人間世界を見下ろした。

ぼやけてきた視界に映るそれら日常の集まり
どこへ向かうかも分からない自転車や自動車
そしてこの町の住民たちをぼんやりと見ながら
みんなはどうして日常を正常に送れているのだろうと
長年に渡り疑問に思っていたことを思い出した。

私が異端ものだと気づいたのはいつだっただろう
心に暗雲が立ち込める予感がしてきて、
他人と比べるのはやめた、ろくな事がない
とばかりに再び空を仰いでみる。

太陽は雲に隠れても尚、微かな陽光を町中に捧げている
私も、太陽のように、己を遮る障害物があれども
それを凌ぐパワーを持てていたのならば
今頃こんな生活を送っていなかったのかもしれない。

とろけた脳みそでそんなことを考える
きっとシラフの脳みそでもそう感じるのだろう。

伸びきってぼさぼさになった漆黒の髪を撫でて
己の惨めさを再確認せずにはいられなかった。

友達も仲間も誰もいない私は
本当に存在しているといえるのだろうか
このままここから飛び降りて
それを確認してみようかと脳裏をよぎる。

脳がとろけて恐怖心を感じない今なら
まぁ、出来てしまうかもと一抹の期待を込めて
力の入らない身体で懸命にうんうんとよじ登り
何かにとり憑かれたように身を乗り出してみた。

下を見ると眩暈がして嘔吐感さえこみあげてきた
そして、気がつけばバルコニーの床にへたりこんでいた。

結局、
不快なことを避け、嫌なことは見ないふりをし、
現実という現実から逃げ続けてきた私には
それを実行する勇気も度胸すら微塵もなかったようで
ただ漠然と変わりたいと願うだけの小心者なのでした。


「手を滑らせて死ねば良かったのに。」


言葉だけは何とでも言えるから。


私は再び窓と漆黒の遮光カーテンを閉め切り
まだ余韻の残るふわふわとした感覚を抱えつつ
ベッドに体育座りをする。

独り孤独に包まれたこの空間で
そっと目を閉じて何も考えないことに専念する。

過去のことなんて総て濁流に飲まれて消えてしまえばいい。

願うなら生まれて来なければ良かった。

どうして生きているの?
それは両親に言われた言葉だっけ。

努力も空しく、専念しきれずに
記憶がどうどうと頭を回り、精神を切り裂いていく。

自決することは出来なかったけれど
自傷だけはいつもしていることで
ベッドに散らばるお薬のシートから錠剤を取り出し貪った。


私は知らぬ間に意識を失っていたようだった
目が覚めるといつもの部屋ではない場所で
辺り一面があの部屋の漆黒のカーテンよりも暗い暗黒に居た
見渡せど、彷徨えどなにも見えない。

けれど、心の痛みは消えていた
空気は淀んでいるけれども、それも心地よく感じた。

いっそずっとここに居られたらいい。


(その願いは既に叶っているのだと知ったのは)
(いつになれど空腹感も眠気も感じなくなったその意味を理解した時だった)



自由詩 悠久アンダーグラウンド Copyright 薔薇の人 2017-04-24 19:20:08
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