おかあさんの音
田中修子

あなたはわたしのなかにいる

あなたの肌にはその日になると
青や緑の痣が浮かぶのだと
教えてくれた

うごかない左腕で
必死に笑ってた
じっと見つめるとちからのぬけた顔になった
それはわたしのほんとうの顔だった
あなたはわたしでわたしはあなた
静かなひととき

またぜったいに会おうねとさよならした
その一週間後にあなたの
心臓がとまった

燃やしてしまいたかった
あなたの肌に
青や緑の痣をつけた男らのこと
それを恥とした家族のこと
あなたを殺したすべてを
殺せないのなら
なにももう見たくはないのに
まぶたを縫っては
ハサミでひらきつづけた

神さまも仏さまも法律も薬でさえ
あなたをなにからも守れなかった
体にあなたを刻みつけた
あなたはわたしのなかに孕まれている

泣きつかれて膝に抱き
綿棒でそっと耳かきをしてあげる
わたしもあなたもほんとうは知らないおかあさんの音
すこしおやすみ

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耳かきがおかあさんの音、というのは友人のことばをお借りしました。


自由詩 おかあさんの音 Copyright 田中修子 2017-04-18 23:40:15縦
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