春の航海
青の群れ

歌う汽笛は下手くそだった
生命波打つ、きみどり色の絨毯の上を航海する船
柔らかな日差しが撫でるように氷を溶かすから、行き先はどこまでも広がる
細かく枝分かれした新芽、太く根を張って、遠くを見通す高台になって

土を踏むことを新鮮に思うようになったことと
桜の木の下にヒールを2センチほど埋めていること

昔の背くらべの印、樹の皮の傷あとをなぞってみたことと
乾いた唇の上を春色に彩っただけですこし幸せになったこと

小さな芋虫が殻をまとっているのをほどくように、変化を進化だと思いたい

草の匂いと、その他のいろんなものを、生ぬるい風がたくさん連れてくるけれど
そのうち何割を歓迎しているんだろうね
マスクの下で止まらないくしゃみへの八つ当たり
踏みつけた草の根は強く育って花を咲かせるけれど、靴擦れした小指が痛かった

何年も前に脱ぎ捨てた制服が強く吹いた風に飛ばされても追いかけることもない
ただ進まぬ船の櫂を漕ぎつづけることに違和感を持たずにいた
薄いスプリングコートに着替えて、冷たく暗い底から錨を上げる

別れを惜しむことなく景色は流れていく
なにかを落とした音がしても振り返らずに

下手くそな口笛を吹きながら

新しいものを受容して、潮風か花粉か、違和感のある目を擦って赤くする


自由詩 春の航海 Copyright 青の群れ 2017-03-22 16:56:52
notebook Home 戻る  過去 未来