バチのオト
藤鈴呼


定期的に響く
カツン カツン

ちょっとだけ 思い出すのは ピンヒール
コンクリートジャングルから 離れて
もう 数年になるのか

楽しかった記憶は
いつまでも 笑顔とともに
脳味噌の中に 張り付いていて

スクリーンが 歪んでも 汚れても
外が嵐でも 誰かに荒らされぬ限り
同じ様な残像を 流し続ける

蹴られた瞬間のことを 連想すると
ちょっとだけ 痛い

雪で全て埋もれた 石段に
初めて足を 踏み入れる 瞬間のような
清々しさを わたしに ください

きっと
雪の色が 桃色でも オレンジでも
同じような 気分なのでしょうが

世の中が 真っ白に 染まる瞬間
何処か 新しさを感じるのです

集めた雪玉を
ゆっくりと投げる
何処か 山の向こうに反響しながら
打ち返してくる バチの音

カツン カツン
叩きたかった 石橋が
雪に埋もれて 見当たらないもんだから
探しているのですね

バチを持つ手は
夏には きっと 浅黒くて
薄着をしながら
水色の液体なんかを 流し込んだ喉も

今では ウイルスに侵されて
咳き込むばかりの 日々

沢山 沢山
語りたいことが ありすぎて
咳き込むのとは 
訳が 違うのです

それでも 言い訳のように
ここには 加湿器がないから、と
小さな声で 呟くのですが

カラカラの喉では
音に ならない

どちらかと言うと 階下に響く
子供達の歌声に
かき消されて しまいそうで

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自由詩 バチのオト Copyright 藤鈴呼 2017-03-19 11:15:14
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