Fw:
末下りょう

終わる今日─

退屈な日でした
蒸れた空ばかりがずっとつづいていて
胸もとをぱたぱたさせながら
ヨーヨーを垂らし
駄菓子屋のアイスボックスの底から
メロン味をたぐり寄せ
南極の怪獣を想像しました

しらない民家の敷地には
黄ばんだ鶏が長い紐に繋がれており
ごつごつした石が所どころ剥きだす地を
ひっきりなしに跳びはね
いい加減な停めかたの軽自動車の
紺色のボンネットはベコッていました

手に垂れたアイスを地蔵のよだれ掛けで拭き
転んだ怪我の大きさを
家に帰って弟と競いまして
晩飯にありつけるまで雑魚寝に耽り
肩をゆすって汚なさを帯びると
世界を逆撫でする餌のありかを明かされ
怖じ気づいた目の
おどけた孤独をおぼえました

あれらから逃げだすものが
腹の冷えたぼくになるのは今日の終わりです
火照るヨーヨーの
波紋が痛いので
母ちゃんの裁縫箱を蹴り倒して
焦げたカラスが鳴きわめく熟れた空に
手を伸ばす今日の終わりです



シアトル─

シアトルの、熱いコーヒーの湯気が
通りの敷石を緑に濡らしている
雨の根ざす古道のように

誰にも待たされたことのない彼女からは
木漏れ日がゆらめき
力が抜けていった  、
微かな笑みが葉陰を散らす

肩につくほどの髪を束ねなおしてから 
べつの匂いを
道連れに
翠苔を
踏み  、

椅子を下りると
意外に背の高い彼女の
飲みかけのコーヒー



自由詩 Fw: Copyright 末下りょう 2017-02-09 01:51:55
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