あっちむいてホイ
末松 努

通りすがりも 同僚も 家族も
一対一でも 多数同士でも
「あっちむいてホイ」に興じている
電波上の 同じ画面を 見続けていた としても
目を合わせることは 禁忌なのだ
抱擁感さえも失い どこからともなく いつということもなく
向けられる視線に わたしたちは
「あっちむいてホイ」と唱えられては 身動きを隠す

その間にも 中継されない委員会は 開かれていて
夕暮れが迎えなくなり 疲れ切った闇の手招きに
しぶしぶ帰宅した後の夕餉にも その解説はなかった
電子レンジの呼び鈴が 法案成立を告げる
ラップを剥ぎ 作り笑いのおかずが あらわになる
ホウレンソウを残したまま 眠った子どもの寝息を 聴くこともなく
発泡酒を飲んだあとも 溜息すらつけない 夜を過ごす

気がつけば 獏の鼻息が 傍に聞こえる
食い尽くしたであろう 夢を まだ待ち構える視線が
「あっちむいてホイ」と言っている
差し出すことに怯え 頸を曲げられなかったので
両手を挙げ 白旗をあげ じっと耐えた
あと少し 夜が明ければ 獏は消えているだろうが
「あっちむいてホイ」禁止が 発令される朝が 来る

誰もが 目を合わせ なければならず
調子を合わせ なければならない 日々の なかに
いなければならない 生存の 本能が
指の示す方向へ 顔を向ける 従順さを
嘘と同じ 色で 冷めた空気に 上塗りしていく


自由詩 あっちむいてホイ Copyright 末松 努 2017-02-05 15:41:51
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