観覧車
カワグチタケシ


*
リンパのようにはりめぐらされた
首都の地下の冷えたレール
そのところどころが表皮をかすめ
夜になると光る花を咲かせる

昇ってしまえばあとは降りるだけ
観覧車は僕らをどこにも
連れていってはくれない
それでも僕らは切符の列に並ぶ

透明なアクリル板にあけられた
小さな穴から
上空の冷えた大気が流れ込む

首都の灯火は眠らずに
ふたりの記憶にまたたきつづける
海の上にだけ闇が訪れる


**
三月、春霞を見おろして
僕らを乗せたゴンドラは熱を帯びる
孔雀の檻のとなりに
ジャングルジムが見える

四月、冷たい風が花びらを散らせる
雨に濡れた新緑を朝日が照らし
パイプオルガンの讃美歌が
薄く開いた窓から入ってくる

五月、雨の古都
雨音は竪琴
壁画をめぐる夜の小旅行

六月、忘れられた季節
何もない空
誰もいない街


***
遠い時間の果てに流れるロンド
花火よりも高く
海鳴りよりも低く
葉ずれよりもかすかに

鼻声のひとも
飴細工職人も
真っ赤なフードをかぶった少女も
同じリズムでまわる

海辺のガラスドームで
観覧車を見上げて
恋人たちはパンを食べている

昇ってしまえばあとは降りるだけ
観覧車は僕らを
もといた場所に連れもどす



自由詩 観覧車 Copyright カワグチタケシ 2017-02-02 23:22:19
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