淋しい東京
天野茂典

 

   鐘が鳴る
   各関節が反応する
   生きるのだ
   木の芽
   下草は
   萌える準備を始めている
   坂は長い
   峠だ
   いつも峠の天辺にいる
   口笛を吹く
   街が見えてくる
   上り詰めた私は
   下るだけだ
   筋肉が張る
   街では筋肉が必要なのだ
   何本もビルが建っている
   私が目指すのはそのひとつ
   最上階にある
   現代美術館のあるビルだ
   まだ未知の作品が私を待っている
   美術の最新情報が知りたい
   多様化する作品群の中で
   私にインパクトしてくる作品は
   都会が現代美術でもある
   にょきにょきと
   空に伸びる
   ピサの斜塔
   東京が傾いている
   傾いているのはヘリコプターか
   ぐるんぐるん
   東京が回っている
   淋しい
   淋しい東京
   だから好きだ
   東京は傾いているから
   私はパラシュートで
   ビルの屋上に
   舞い降りる
   鳥でもないのに
   物語の終わりは突然に来る
   私は酔ってはいない
   酔っているのは大都市だ
   私はパラシュートをはずす
   東京が光の海になる


未詩・独白 淋しい東京 Copyright 天野茂典 2005-03-06 17:51:09
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