狂馬
春日線香

懐で古銭をじゃりじゃりさせながら
暗い大通りを歩いていく
多くの脇道が横に伸びていて
かつてここを一緒に歩いた人が
上から見ると「馬」の字になっている
と教えてくれた町
何百年も前に大火のせいで
見渡す限りの焼け野原に変わったという
その大火の前日に
大通りを北から南へ一頭の狂馬が駆けた
町人、武士、子供、乞食などなど
多くの者がそれを見送った
ようやく火が消えて落ち着いた頃になって
あの馬は災厄の前触れだったのだと
まことしやかに語られた
今その大通りを
懐で古銭をじゃりじゃりさせながら
北から南へ歩いていく
幻の狂馬が駆けた
馬の字の町


自由詩 狂馬 Copyright 春日線香 2017-01-29 10:17:04縦
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