宿命の CANDIDE
ハァモニィベル

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   第 一 章


どうしようもなく雨が訪れる日々がある。
だけど長くは続かない。
けれど、あのときは…
雨は、いつまでもやまなかった…

それを予感というのなら、たしかに(言えなくもない)
けど、それは、あまりにも哀しすぎることだった。だから…、
だから、あの日…、
すべては、凍りついたんだ。あの瞬間に。


まだ少年の頃、一度だけ人が殺されるのを見たことがある・・・。
それは、ある風変わりな少女との出会いからはじまった。
恋人に殺されたい。それが少女の唯一の願いであり夢だった。
 「ねえ、あなたは、わたしをどんな風に殺してくれる?」
それが、遭うたびに必ず訊く彼女の言葉だった。

 それを周囲に話しても誰も真に受けはしなかった。ただ、唯一親友と呼べる朝雄だけは
ぼくの話を聴いてくれた。だが、かれは彼女の奇行をごくあたり前のように聞くだけだった。
それはきっと、朝雄自身が変わっているせいだ。朝雄はいつも、自分が自然の一部でないこと
を悔やんでいる人間なのだ。彼は、自分が山の木や、岩であればよかった、と常々ぼくに話していた。
自分が、雑草や川でないことが、彼には辛かったのだ。ある意味、彼もまた奇人なのだった。
だから、ぼくは、彼女の奇人ぶりを、もうひとりの奇人に相談していたことになるだろう。

 ぼく自身については、とくに変わった性質はないと思う。強いて言うなら、真夜中が好き
ということだろうか。ぼくは子供の頃からずっと真夜中を愛していた。それは、きっとぼくの
名前と関係している。僕の名は深夜(しんや)。生まれたのが真夜中だったからそう
名付けられたらしい。それは、彼女の名前の由来と同じだった。真夜(まよ)というのが
彼女の名だ。ぼくたちは、互いの名前を知った時から、すでに運命を感じていたのだ。





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散文(批評随筆小説等) 宿命の CANDIDE Copyright ハァモニィベル 2017-01-23 23:53:31
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