風船革命
そらの珊瑚

かつて風船には二種類あった

空気より軽いガス製と
人間の息製と

人間由来の僕らは
空を飛べないはずだった

小さな手ではじかれて
ほんの少し空を飛んだ気分になって
じべたに落ちて
あとはゆるやかにもれて
死んでいくだけ
ぽーん ぽーん
小さな手にやわらかくたたかれ
薬局のおまけでしかなかったこの僕に
うたかた
夢を見させた

 坊や 苦いお薬ちゃんと飲めておりこうさんね
 きっと次の日曜日までには熱は下がるわ
 そしたらパパもいっしょにピクニックにいきましょう
 おむすびにぎっていきましょう
 桜が咲いているかもしれないわ

あの日のあと
僕らはついに空を飛んだ

人間の息がガス化したんだろう
青い風船が云ったけれど
息もガスも透明だから
その真実は誰にもわからないよと
赤い風船が云う
どちらにしても革命はなされたんだ
無血革命を誇ろうではないか、諸君
黄色の風船はますますふくらんだ
革命? そんなことより僕は
あの日からずっと
ガイガーカウンターが鳴り続けている方が
気になっている

僕のおなかに描かれていた
象は巨大化し
いずれ輪郭を失くすだろう
たが、が はずれ
ふくらみ続ける僕らの色は
やがてうすまり
透明に近づくだろう
ふくらんで
ふくらんで
この空は
おまけだった僕らが支配するだろう
宇宙もふくらみ続けて
そのあとどうなるんだろう

ぽーん ぽーん
たたかれてるのに
楽しい気持ちにさせてくれた
小さな手は
小さな手の持ち主は
あのあとどうなったんだろう






自由詩 風船革命 Copyright そらの珊瑚 2017-01-23 10:37:02縦
notebook Home 戻る