アトランタ 大雨 ボーイング Made in China
末下りょう

タコベルと韓国料理店しかない町に繋がるトランジットはアトランタの大雨しかない

リュックを枕にデルタのベンチで足止めをくらう
搭乗口のスタッフもいなくなり
我慢できる程度に肌寒く
濡れた機体を並べた空港をみてると
大きすぎるか小さすぎていく

いくつかのパラシュートが霧のフォートベニングからはぐれて
ベトナム戦争の教練場だった森林に着地したと
そんな感じのことをCNNは短く伝える

ターミナルのアナウンスは英語からスペイン語にかわり
子音は母音のどっかにもたれかかり
コーラ戦争の兵士とバックパッカーたちが
航空券とソラリーボードを見比べて
広い肩を揺らす

親に買わせたMade in Chinaのヘッドホンの無音
音飛びするガムを噛み
それまで持ってたいくつかの熊はいなくなり
言葉を奪われるたびいくじなしだと知った

観光客は行き場をなくして旅人はもういない
馴染めない銘柄のジュースが床に散らばり
大男の寝息が聞こえる

濡れて光る滑走路には灯火の点が滲み
区切って繋ぎ合わせてる
搭乗ブリッジはぎこちなく変形して
雨具を着た整備士はなにかの合図をどこかに送り
牽引車が貨物を列ねて運んでく

定刻も変更も空欄になって
どこよりも近い目的地も隔たりを持つものじゃなくなり
ボーイングはしまわれ
閑散とした免税店の香水の匂いがやたら浮いて
コンコースのほうから乾いた靴音が移動してくる

遠ざかったはずの遠さがすぐそこで
遠いものの遠い目つきで
雨の実在だけを知らせてる

横滑りの時差だけなら国籍のない夜を
コレクトコールの代わりに積んだコインを指で崩せた

なにもなかった町の始めの部分に休む灯りをみつけて
なにかの役割を形づくるように
味のきれたガムを銀紙にくるみ
区切ることから区切れて強まる雨をひどい姿勢で眺めた


自由詩 アトランタ 大雨 ボーイング Made in China Copyright 末下りょう 2017-01-23 00:59:16
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