Fw:
末下りょう

その思い出に─

乱暴に溢れていた
素晴らしい世界に
果てからのざわめきに、ささめく木々に

女たちは
体質をかえた乳房の
エンクレーブに
奥まりからの流れを導き入れて
そこに生まれてくるものをくるままに
くつろがせながら
絶えざる沐浴という名もなき全体に
なめらかな身を委ねることを好み
水辺には
素足に素顔をよせ、よごれを素手でおとす女たちがいた
だれもが喜びを贈られた娘たちのひとり
ミルクセーキの匂いをさせた子どもの
濡れたお腹についた葉は
これからの自由の目印のように
笑っていた
もうなにを笑っているのかも
わからなくなった笑いのように
はにかんで
傾いて生える樹木の幹から
子どもたちは楽しげに飛び込み
素知らぬ顔で女たちの水におしっこを放つと
たったいま生まれたばかりの
クラゲのように
揺れていた

素晴らしい世界に


夜道─

夜道をあるいて
角を曲がり
つまずいて
ころび
立ちあがり
はしり
角を曲がり
つまずいて
ころび
ふりかえり
夜道からぼくがきて
つまずいて
ころび
立ちあがり
ぼくをみる
月あかりと
つきあたりのない
夜道をあるいて
棒立ちの王様に仕えて
王様を王様とよび
角を曲がり
つまずいて
ころび
立ちあがり
はしり
角を曲がり
つまずいて
ころび
ふりかえり
夜道からぼくがきて
つまずいて
ころび
立ちあがり
膝をはらい
自転車のブレーキ音に
かき消された
ことばなにか
開いたくちが
バカらしく
背中をかいて
ふりかえり
夜道をあるいて
角を曲がり
ぼくが追い越してく
背中をかいて
はしり


自由詩 Fw: Copyright 末下りょう 2017-01-21 01:33:27
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