心象風景三 アカラシマの祈り
田中修子

1.
いつから
足りていないものばかりを
指折り数えて呪い

2.
消え入りそうな風のわたしは
どっしりとした海のあなたに安らいで
ゆるり 守られ
はじめて 安息し
ながいながい淡桃色のまどろみのあいだ
白いさざ波を数えながら
海猫と戯れ
いつか微笑むようになり
おなかを抱えて笑うようになり

いつかパンと正気がはじけ
天に届くように哄笑した
止まらぬ咳のように笑いつづけた

巫女が舞うさまからできた笑うという字は
幸福にすぎたわたしを

ものぐるいにした

3.
ものぐるいのわたしの舞いは天にとどいて
いまわたしはアカラシマ 暴風だ

穏やかな海は荒れ果てた
銀や青の魚は散った
赤の珊瑚はま白な海の骨に
ただ海猫だけが一匹
あなたの上にニャーオニャーオ、と舞い

わたしは海のあなたをあとにした
泣き叫び 垂れ流しながら

4.
アカラシマの首はいま
獣の手に預けられている

いつでもひねっておしまいをくれるように

獣の、いっけん滑稽のように細く
その実は全てひきしまった筋肉の体に
わたしは欲をする

さまざまな世界の穢れを旅し

そのなかでわたしを選ぶという獣よ
アカラシマを愛し続けると誓うきみよ

きみも立派なものぐるいさ

わたし、いつか、きみ、

5.
それでも火の獣のささやきでは
アカラシマのわたしの中は

いま 春のかわいらしい花が 咲き乱れているという

美しい蝶が夢のように舞っている

そのひとひら ひとひらを 綺麗だなぁって 
少女のわたしがほほ笑んでいる

足りているものをかぞえれば
天の星よりなお多く
アカラシマは
ただ
祈る


自由詩 心象風景三 アカラシマの祈り Copyright 田中修子 2016-12-27 19:59:51縦
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