詩集のページをめくるときのように始まる
水宮うみ


現実逃避に散歩した。人と一緒にいるのが辛いから。
腕時計もスマホも本も鍵もなにも持たずに外に出て、
川沿い、田んぼ、池、公園、草むら、海辺、かつての僕が居る、いろんな場所を歩いた。
自然は現実から最も離れた場所にある。自然のなかに言葉はないし、自然をぼぉーっと眺めているだけのときに言葉を使う必要がない。
自然のなかでは、他者の心の機微を気にする必要もない。僕は誰である必要もなくなる。

僕は一度終わって、自然に手を触れることで、もう一度始まる。
読みかけのまま、放置していた本のページをふと読み直すときのように始まる。
自然は詩集だ。何も書かれていない、何度も何度も読み込まれた、古びた詩集だ。



自由詩 詩集のページをめくるときのように始まる Copyright 水宮うみ 2016-12-25 23:45:42
notebook Home 戻る  過去 未来