蕪の葉
佐々宝砂

わたくしの心にだって情念の火くらいはありますのよと
微笑んで密集した蕪を抜く
抜いても抜いても蕪は密集していて
今日も明日もあさっても蕪の抜き菜がおかずですねと
やっぱり微笑んで蕪を抜く
微笑みを返してもらえないのはわかっていますのよと
蕪の泥をざっと手で落として蕪を洗う
小さな蕪を切り落としでも捨てるのはもったいないから
橙醤油に漬ける
蕪の葉はざくざくと刻む
フライパンに胡麻油をひいて
シラス干しがカリカリするまで火を入れて
切り刻んだ蕪の葉を手早く炒める
ほんのちょっとだけ塩
入れ過ぎたらシラスも蕪の葉も負けてしまいますのよと
青菜に塩みたいになってる人に向かって微笑んで
(ああわたくしは微笑んでばかりいる)
今日もお肉がなくって申し訳ありません
うちの財布にはお金がありません
食品棚だっていつもからっぽです
わたくしはどうやって火を維持したらいいのでしょうか
いえ維持しようと思わなくても火は燃え上がるものなのです
などとわたくしは申し上げたりはしなくて
かわりに食卓にどんと焼酎の瓶を置く


自由詩 蕪の葉 Copyright 佐々宝砂 2016-11-15 00:40:23
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