生命の樹
服部 剛

ひとつ屋根の下で暮らした、お婆ちゃん
僕が生まれるより前に病で逝った、お爺ちゃん
幼い僕の頭をかわいいかわいいと撫でた、ひい婆ちゃん
娘の幸いを願って逝った、嫁さんのお母さん
年老いたある日突然走り世から去った、嫁さんの愛犬クロ
病んだ心のまま途中下車した、若き日のままの友
病の暗闇と闘い抜いた、ある若き歌姫
モノクロームの写真立てから今もこちらを見守る、高齢の詩人
夢の中で(君の息子を守る)と囁いた、作家の面影

どうやら私という人は
私の思いを遥かに越えて
黄泉の國の死者達の息吹に
生かされて
ひとりでいながら、単なるひとりではなく

もし、いのちの樹が立つならば
無数の祖先は、地中深く根を張り巡らせ
無数の子孫は、星々を仰ぎつつ…枝葉を広げ
みゃくみゃくと、みゃくみゃくと生命は
今・ここに宇宙にひとりの者として
息を吸い――息を吐き

我は宇宙に只ひとりの者として
自らの内に包む
無限に輝くいのちの石を  






自由詩 生命の樹 Copyright 服部 剛 2016-10-19 21:00:01
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