すりおろしりんご
藤鈴呼


赤かった皮のことなんて
なかったような角度で
スリオロサレル

リンゴの身になって御覧なさい
決して実になってはイケマセン

まして見に行ってはいけませんよと言われると
覗き見したくなるのは 人の常でも有りますが

我慢なさいと おっかあが おっしゃったので
頷きたかったのだけれども 肺が痛くて 声が出ない

会話の途中で 遮るような 車窓から
手を振る子供達の 笑顔を見るにつけ
虚しくなるけれど 大丈夫

ここには 温かな液体が 存在するのですから
今すぐ 飲み干してしまおうと 独り言

杯を重ねる度に
肺の痛みなど
まるで なかったかの ようになる

鶏の皮の ポン酢和えが オススメですと
店員の進言に従って 進めば 落とし穴

はるか 向こう側まで 見えるかのような穴には
注意した方が 懸命

それならば マンホールに 片足突っ込んで
笑われていた方が 良いものか 迷う時

一瞬にして 肌の色は
赤く 染まる
酔っ払いの 合図

忘れていた 皮の色が
見事に蘇る

こんなに リアルな テカテカは
自然界では お目見えしませんと

店員の小言に 付き合わされちゃあ たまらないと
身をよじり

見ないように しているのだけれども
耳を かっぽじって 良く聞けと 言わんばかりに

銀色のボールを 出されるから
ヨウジを 手にして しまうのです

ふよふよと浮く 
塩漬けにされた 甘かった林檎が

少しだけ 
そっけなく
しぼんだふうで

お前は そんな筈じゃあ なかっただろう 
もっと 輝いていた筈だろうと
嘆く声だけが 響くから

反響するような 窓と言う窓を
全て 閉じた後で
カーテンを引く

ミュートしてしまえ 全てを
すりおろしてしまえ 果実を

コソギ落としてしまいたいのは 脂肪の事実
死亡させるには 期間限定の現実

ぷんわりと 甘い香りを放つ 餅ばかりが
待ち遠しいけれど

空腹にまかせて かっこんだら
きっと 後悔を するんだからって

お天道様が ゆっくりと 微笑むのです

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自由詩 すりおろしりんご Copyright 藤鈴呼 2016-10-16 14:48:09
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