お月さまになったさかな
水宮うみ


さかなたちは宇宙の周りをくるくると泳ぐ。
さかなたちは世界の周りをくるくると泳ぐ。
なかには流れ星になるさかなもいる。風になるさかなもいる。波になるさかなもいる。
神さまだってくるくると泳ぐ一匹のさかなだ。
さかなたちはみんな、言葉が嫌いだった。言葉にぶつかると痛いし、刺さるし。傷つけあってばっかりだ。さかなたちは、言葉なんかじゃなく、ことばが好き。
だから、お月さまになった一匹のさかなは、地球のことが嫌いだった。地球って言葉だらけだもん。
ことばは優しいし、何の苦にもならないし、考えなくていいし、楽しい。
さかなたちはくるくるぷくぷくしているだけで幸せ。
そんなある日、月のさかなのところに、人がやってきた。
月のさかなは、はじめて人の足音を聞いた。月と人との出会い。
「こんにちは」と話しかけると、「こんにちは」と返してきた。
お月さまは人に、今までの人類の足跡を教えてもらった。とっても長い人類の足跡を、言葉を使って教えてくれた。
そうしてお月さまは知った、人はみんなことばを話したいのに、どうしても言葉になってしまうんだと。
教えてもらったお礼に、お月さまは輝いてみせた。人はとても喜んだ。地球も喜んだ。
笑顔をみるのはお月さまだって嬉しい。
人はお月さまからさかなの生き方を学んだ。
月と人はバイバイし、人はくるくると泳いで地球に帰った。
そうして、お月さまになったさかなは、地球という一匹のさかなのことがちょっとだけ好きになりました。



自由詩 お月さまになったさかな Copyright 水宮うみ 2016-09-14 20:30:17
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